日本地球惑星科学連合、若手育成で意見書提出

地球惑星科学連合では、以下の意見書を提出しました、事務局は、人手不足でてんやわんやなので一足早く、ここに載せます。

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文部科学省 川端達夫大臣殿
内閣府行政刷新会議 鳩山由紀夫議長
                             2009年11月25日
刷新会議事業仕分けについての意見書(若手研究者育成)
【 事業番号3−21 若手研究者育成 】

般社団法人日本地球惑星科学連合 会長 木村 学

  • 48加盟学協会列記(省略) -


私たち一般社団法人日本地球惑星科学連合は、日本の地球科学、惑星科学、地球環境科学などに関連する48学協会が加盟する学術団体です。
私たちは、将来の科学を担う若手研究者の育成に関して、仕分け結果と評価をコメント拝見して、以下のような観点から重大な危惧を抱くにいたりましたので、見直していただきますよう、強く意見表明いたします。

研究者の育成は、国の科学技術の将来を左右する重要な課題であり、かつ時間を要するものです。仕分け作業においても指摘されていますように、当面する若手研究者問題の解決にも抜本な取り組みが必要にもかかわらず、その対策に具体的に触れずに、現行の一部の事業のみの削減を議論すること自体に大きな問題があります。
私たちの分野では、関連する多くの科学技術事業において、多数のポスドクが雇用され、研究の推進に重要な役割を担っています。それとは別に、特別研究員事業によって、既存の研究枠組みを超えた独創的な研究課題に取り組む若手研究者の活動が支えられ、新しい研究領域が開拓されてきました。若手研究者育成システム改革事業は、それらを通じて輩出された人材を、より有効に、かつ、継続的に研究・教育・産業界で活かすために重要な役割をはたしています。
若手研究者育成事業や全体の科学技術事業を削減することは、若手研究者の活動を著しく阻害し、同時に、彼らに続く更に若い世代が研究職を志望しなくなることが強く予想されます。その結果、国は科学技術の基盤を失うことになります。このような事態にならないようにするためには、どのような場合であっても、若手研究者の雇用継続によりキャリアを形成し、将来に展望が持てるよう、予算の配分において重点的、具体的な対策をとる必要があります。
以上の点を鑑み、仕分作業における若手研究者育成事業および関連する科学技術予算全体への評価の見直しを求めます。

事業番号3−21 若手研究者育成

①科学技術振興調整費(若手研究者養成システム改革)
テニュアトラック制度(若手研究者が自立して研究できる環境整備と活躍機会を与えるシステム 改革)
• 企業へのキャリアパス支援(イノベーションを創出する研究人材の養成システムの構築)
 ②科学研究費補助金(若手研究(S)(A)(B)、特別研究員奨励費)(若手対象の科研費
③特別研究員事業(DC, PD, SPD, RPD) (研究員雇用制度)

若手研究者支援に関する課題
1.アカデミックポストとポスドク(任期付き雇用の博士課程修了者)の役割
現在ポスドクは1万6千人を超えるといわれるが、③特別研究員事業(DC, PD, SPD, RPD) (研究員雇用制度)よるポスドクは全体の1−2割であり、現在問題とされているポスドク増加の原因でもなく、ましてやポスドク救済策でもない。これらのポスドク制度は将来アカデミックポストにおける活躍が強く期待される若手研究者の育成プログラムである。評価コメントには、この点に関して事業内容の理解の混乱が認められる。
また、①科学技術振興調整費(若手研究者養成システム改革)テニュアトラック制は研究員雇用制度に引き続き、アカデミックポストに就く人材を育成するための事業であり、基本的には 5 年間で能力をさらに磨き、テニュア審査を経て、すでに用意されている常勤ポストにつくという制度であり、ポスドク救済策ではなく、将来アカデミックポストにおける活躍が強く期待される若手研究者の重要なキャリアパスである。なお、テニュアトラック制の常勤ポストが7−8割などということは、制度上ありえないはずである。
 特に国立大学では、長期にわたる国家公務員の定員削減や法人化に伴う予算削減の結果、この10年間に助手(現在の助教)のポストが半減しており、正規雇用教員の業務も過重を極め、研究と教育の両立が困難を極める状況になってきている。その役割を補佐し、本来はその責務外である学生の教育をも実質的に担わざるをえない状況に置かれているのも、これらの任期付研究員である。これらの制度を縮減することは、わが国の将来のアカデミックポストの研究者を失うこととなり、科学技術の発展と大学教育を著しく損なうことになる。


2. 社会の多様化に見合った研究・教育システムの充実
 長期的に見た場合、人材こそが社会を支える力である。社会が博士に求めていることは、広い知識とそれらを統合する能力と、自ら多様なことを企画する能力である。このような能力を持つ人材を大学が育成するためには、さまざまな形の支援(研究員雇用制度DC、GCOE等による援助、運営交付金による授業料免除など)を可能とする経済基盤が必要である。すなわち、特定のプロジェクトのためではなく、自由な発想で自らの研究を進めるための支援である。この投資を減らすことは、「知」を無視した大学をつくることになる。優秀な若い人たちに、社会の期待をこめて投資をすることこそが、これからの日本にとって最も必要である。
また、平成21年度の「科学技術白書」は、我が国において基礎研究段階の人材が不足している可能性を指摘しており、その解決のためには任期の長い(短期では無い)常勤職の増員が必要である。その職は、従来の研究・教育職に加え、外部資金の獲得や産学官連携活動等の研究に不可欠な活動を支援する研究管理専門職、高度な知識と経験を要するデータの収集・分析を行う研究支援専門職、研究成果を広く一般に普及させるアウトリーチ活動専門職などの新しい職種を含むべきである。日本では欧米やアジアの国に比べてもこのような職に対する資金と人員の配置がきわめて手薄であることが指摘されており、これらの職の拡充が必要である。

3.社会における若手研究者の活用促進
科学技術立国を推進するためには、①科学技術振興調整費(若手研究者養成システム改革)• 企業へのキャリアパス支援が目指しているように、基礎研究分野での学位取得者の能力を、産業界でもより有効に発揮できる取り組みが重要である。また、評価コメントにもあるように、ポスドクなどの高度な科学技術人材が教育現場での科学教育に携わることにより、科学技術教育の高度化が期待され国全体としての利益につながる。これは大学や若手研究者本人の努力だけでなく社会全体の体制の変化も必要とし、時間を要する課題である。短期間の就職率だけを見て成果を評価することは、拙速であり非常に危険である。

4.若手研究者のキャリア形成
現在、プロジェクト予算によって多くのポスドクが雇用されている。特に宇宙・海洋・気象・地球科学の分野では、長期の大型プロジェクトが実施され、その中で、ポスドクは研究者としての経験を積み、将来は大学や公的研究機関において、これらのプロジェクトの主要な担い手として、国際的にもリーダーシップをとる活躍が期待されている。大型研究開発プロジェクトは、今後10年―20年の研究の流れを変える展望を持って推進されており、それを見込んで10年の年月を要する研究者の育成を行ってきている。ここで研究プロジェクトを急に停止することは、せっかく育成した人的資産の無駄遣いに他ならない。このような人材を無駄遣いすることによって一時的に予算を浮かせても、それは必ず将来の負債となる点について、慎重な判断を強く要請したい。
同時に、ポスドクは自立した研究者として任期の無い常勤職を得るためのキャリアが必要である。そのための競争的資金として、応募を常勤研究者に限定していない②科学研究費補助金(若手研究(S)(A)(B)、特別研究員奨励費)(若手対象の科研費)は極めて重要である。これらの削減により、若手研究者のキャリア形成に支障が生ずる。
なお、プロジェクト雇用のポスドクは、予算制度により職務専念義務が課せられ、会計検査上の多くの制限を受け、キャリアの形成に支障が生じている。実際に科研費の応募ができるポスドクは半数以下である。この職務専念義務を緩和し、科研費の応募や、独自の課題の研究を少なくとも一定の割合で実行できること、あるいは教育界・産業界で能力を活かす準備としての非常勤講師・インターン経験など研究外活動の時間を保証し、次のステップに向けた研究・教育ポテンシャルの向上を保証する制度に変更する必要がある。


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