学会とはなにか?(6)EGU&コペルニクス

コペルニクスというのは、欧州地球科学連合(EGU)を支える会社だ。
昨日、東大地震研究所の佐竹氏と共に、元社長(現在は息子?)のArme Richer氏の話を聞いた。EGUの完全open access electric journal、ASPなどを仕掛け、一気にアメリカのJGRを超えて世界を驚かせた人だ。
午前11時から、昼食もはさみ、午後5時まで。理念からはじまって、延々と話し続ける。会談の目的はジャーナルであったのだが、でも大変参考となった。

まずは、EGUの成立過程。多くの国、そこに多くの学会。更には欧州を名乗るだけで、EGS(欧州地球物理学連合)、欧州地質学連合(EUG)、欧州ーー、と別個に多くが存在していた中でのmergeの物語。これは数年前のJohn Ludden (元president,現在イギリス地質調査所所長。私は、昔彼がカナダにいた頃に知り合い、彼のところに約10ヶ月転がり込んだ)から聞いた話とほぼ同じ。
要は、徹底したバトル(討論)の中から生まれたこと。欧州は歴史において殺し合って来た。しかし、科学は共通した言葉を持つ。このことの一致が最も本質。学会組織構成において最も鍵となるのは、ボランティアではなく、長い時間張り付くpermanent directorを置けるかどうか。彼自身のことだ。
このArme Richer氏は数学畑の人。Nonlinear geoscienceグループを立ち上げジャーナルも作った人。
そのpermanent position に対する給与はマックスプランク研究所が払った。すなわちそのような組織作りを支えたのはドイツだったと。

会議とジャーナル。これは学会としての2つの最大の事業。
その古典型を如何に超えるか?オーラルとポスター。学会が発展すると会場問題もあり、ポスターの重要性が益々増える。オーラル一過性。ポスター長時間プレゼン。年寄はオーラルが普通、そこから追いやられたのがポスターと思っている。しかし、若者はポスターが普通と思っている。このポスターセッションを如何に充実させるかが鍵。たとえば、ポスター会場の全てのブースに電源をつけてラップトップでプレゼンできるようにしただけでどうなるか。発表者は会話しながら発表できる。それが何百件も同時進行する。あるいはネット上でそのポスタープレゼンを一斉公開したらどうなるか。ポスターセッションの最大のメリットは直接対話。このポスターセッションの大改革をするだけで学会というものは大きく変貌する。EGUは会場がウイーン。会議場に設備の改善を直接交渉しながら進めている。ポスターセッションの大改革が夢だ。

ジャーナル。とにかく高い。さらに審査過程の不透明さ遅さが最大の問題だった。審査の意識的遅延と剽窃。どこでもあった(今でもある?)。それは科学発展に取って最大の問題であることは共通の認識。いかに風穴を空けるか?その鍵はフリーアクセスと審査過程の完全透明化。審査の迅速化。大商業雑誌や巨大AGUに対抗するには、さらに出版までのコストダウンの方策が必要。その鍵はソフト開発。出版体制を研究するためにエルゼビア、シュプリンガーなどへ出かけて秘密部分以外は全て調べた。一番手間とお金がかかるのは最後の形式整えの部分。エルゼビアなどは一人当たりの担当ジャーナル論文は4、それをコペルニクスはソフト開発で一人当たり30を実現。大幅コストダウン。フリーアクセスを可能とした。そのknow howはもちろん企業秘密。ソフトだ。ライセンスは自分が持つ。
審査過程の完全透明化。discussion paper制。まずeditorが審査のためにopen discussionへまわすかどうか判断。まわすとそこに査読者のコメントだけではなく、一般からもコメントをつのる。記名が基本だ。
このことによって科学的コメントのみとなり、審査につきものの他の要素(人間や国やグループの好き嫌いからくる理不尽なコメント)が排除される。discussion期間が限定されているので、迅速となる。編集者はそれらと著者による応答を見て、最終的に受理を判断する。受理されるとpublish(形式が整えられ、号、巻、ページがつく)。討論過程も永遠に残す。rejectされたものはもちろん他のジャーナルへ投稿可能。
これで、ASP(大気関係)は一気にJGRを超えた。インパクトファクターは3程度からはじまったが今は5。

Richer氏は以下のコメントも述べた。
そもそもISI がインパクトファクターのデータを割り出すにあたり、古典的形式(形式が整えられ、号、巻、ページがつく。紙も)の提出を求めることが科学の発信への経費負担としてのしかかっている。大手出版業界や超巨大学会(AGUのこと)の支配を許している根源だ。今や、多くの大学がElsevier free, AGU free とならざるを得ない。ネット時代に適合していない。そこにも風穴を空けねばならない、と強調した。