学会とは(8)ジャーナル

ジャーナルをめぐる議論が、連合でも活発にされている。
整理のために以下の個人メモを作成した。これは公式見解ではなく、私見です。

ジャーナル出版の基本理念
 学術推進の二大事業―集会と出版:出版をめぐる議論を原点の理念から見てみよう。学会とは、それぞれの分野の科学を発展させることを目的として組織された自主的な組織のことである。この目的達成のための根幹的事業は学術推進事業であり、それは2つである。
 1つは、会員が一同に介してそれぞれの科学の成果を公表・交流し、発展に資する集会・会議の開催である。2つは、科学の成果を専門集団として認定し、広く人類社会へ発信、永久的知的財産として定着させるための出版事業を行うことである。
 この学術推進の「車の両輪」を強力に推進する学会コミュニティーが科学推進の指導的組織的プラットフォームとなる。地球惑星科学連合が、AGU,EGUなどと同様に地球惑星科学分野で、プラットフォームとして世界的に大きな影響力構築を目指すという戦略目標を持つ以上は、この両事業を推進することは欠かせない。

 集会事業の限界性:集会は、実際に科学を推進している科学者相互に直接コミュニケーションの機会を与える場である。それらはネット、メール、書簡、ジャーナルなどの間接コミュニケーションでは得られない情報交換、交流の場を提供するという独自の意義がある。しかし、それだけでは学術推進事業として不十分である。
それは以下の理由による。
1。科学の成果の公開が一過性であり、それを人類共通の知的財産として定着させる事業ではない。
2。学会発表の講演要旨は公開、アーカイブ化されるが、その根拠となるデータベース、論理展開などの詳細は公開されないのでそれだけでは科学の成果は検証できない。
3。講演要旨は、一応の査読制度はあるが、科学的根拠が明らかに異常、あるいは目的が学会にふさわしくないもの以外を拒否することは一般に困難である。
4。集会は会員に閉じており、講演要旨の閲覧以外は一般に公開されない。一般参加の窓口はあるが、時間と場所の制限があり、その条件を満たす人以外は参加できない。

学術推進事業と公益性の認定基準:この学術推進事業としての集会開催事業の限界性は、公益法人制度の改定にあたり、それまで公益法人として存在していた学協会の再認定に当たっての批判にも反映されている。
その批判は以下である。
1。会員へ閉じている組織であり、その交流・情報交換を主目的とする団体の事業は公益事業と言えない。
2。財政的にも会費収入と会員配布限定の出版は、いわば同窓会などと同じであり、広く一般の公益に資しているとはいえない。
それに対して、学協会、学術会議そして文部科学省所管部局などの反論の柱は、以下であった。
1。学会は、科学の成果を交流するだけではなく、論文を掲載する学術雑誌の発行と、専門家による査読制度によってその成果を保障し、広く公開している。知的財産の構築という最も公益性の高い事業を展開している。
2。論文のアーカイブ化と共に、ライブラリーあるいはネットシステムを通じての一定時間経過(あるいは即刻)後の無料あるいは有料の公開は学会の公益事業の根幹である。
 すなわち、公益性に対する反論の最大の根拠は、ジャーナルの出版事業である。ただし、同時にアメリカや欧州などにおいては、それらの厳密性がなくとも非営利非政治の学術団体は、公益法人として税的優遇措置が認定されている。西欧社会には、学術推進そのものが高い公益性を持つという長い歴史の中で培われた文化がある。

 ジャーナルの発行事業とくに英語国際ジャーナルの重要性:科学の成果の定着と発信は、基本的にグローバルでなければならない。すなわち今や国際言語となった英語国際ジャーナルが基本である。地球科学はその分野の一部で地域性を持つという特徴があるが、その成果の一般的意義を押し出すためには国際的でなければならない。長らくそれぞれの国、地域などの言語による出版が行われてきたし、現在も行われている。しかし、それらはデータベースとしても科学情報としてもグローバル科学者社会の情報ネットワークにリンクしないものが圧倒的である。ノーベル賞などのような知的先取権の徹底検証システムを持たない国際ジャーナル査読制度においては、一般的に非英語言語ジャーナルの知的先取権は保障されない、あるいは極めて発見されにくい。あるいは意識的に無視される、などの現状がある。非英語言語とくに日本語のような少数言語に関する検索システムや自動翻訳システムの発展が不十分な現状においては、自ら情報検索システムに、瞬時に、かつもれなくかかる英語ジャーナルを発行することが極めて重要である。非英語言語に関してのISIシステムの導入が徐々に行われているが、その審査基準は高く、それですらタイトル、要旨、図表説明の英語併記を条件としている。