アイヌ語地名で旅する北海道

アイヌ語地名で旅する北海道 (朝日新書)

アイヌ語地名で旅する北海道 (朝日新書)

いつものごとく、通勤時の立寄り本屋で見つけた最新の本。私は北海道生まれの北海道育ちなので、おもわず手にした。
一見、地名由来の説明の本のようであるが、それを名付けたアイヌの人々、そこにうまい漢字を当てた和人、その双方の思いが伝わってくるようである。北海道出身の北海氏が定年後にまとめた良作である。

私は昔、北海道の地質学的成立過程を学位論文としてまとめたので、かつて訪れた多くの懐かしい川の名前、山の名前、地名が満載であり、のめり込み、一気に読んでしまった。また、この本を片手に各地を旅してみたくなった。自然の歴史に人の歴史を重ねる新しい視点で。

子供時代に習った北海道の歴史は、五稜郭戦争にはじまる明治以降が主である。
それ以前にどのような歴史があったのか、そして、幕末ー明治時代にどのような開拓の歴史があったのかを全体として俯瞰して教えてくれるものは少ない。

たとえば江戸時代に2度のアイヌとの大規模な戦争のあったことを知る日本人は、北海道でもどれほどいるであろうか?
和人側(松前藩)が和解と称してだまし討ちをし、シャクシャインなど数百名のアイヌの首をはねた事件など、おそらくどの歴史の教科書にも書かれてはいないのではないか?松浦武四郎という伊勢出身の幕末の人がどれほどアイヌと深く交流し、理解し、北海道の知見をもたらしたのかということも、おそらくはさほど知られてはいまい。

私は子供の頃に、「知里真志保」というアイヌで始めて東京帝大に入学し、その後北海道大学の教授となった凄い人がいるのだと、小学校の教員であった父から良く聞かされていた。その父が、テープレコーダーを持って開拓時代の苦労話やアイヌとの交流を録音しに、老人達から話を聞くべく走り回っていたことを微かに思い出す。その父は既に遠く昔に亡いが、そのテープはきっとどこかに埋もれているに違いない。

北海道開拓には、アメリカ開拓とネイティブアメリカンとの時代も背景も良く似た悲しく埋もれた歴史があるのである。

アイヌ民族は、文字を持たず言葉も日本人とは全く違い、長らく差別され続けて来た歴史を持つ。近年、北海道の開拓時代をテーマにした様々な著作や映画がある。たとえば、池澤夏樹氏の「静かな大地」、それとほとんど同じ場面で良く似た昨年公開された「北の零年」がある。が、いつかきっとアイヌ民族の側から見た名作の出るのを期待してやまない。