理性の限界

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)
電車の中で、断続的に読み終えた。
私たちの科学で言えば、クーンのパライダイムの転換、すなわち科学の革命は、プレートテクトニクスの成立を最もよく説明する科学論としてつとに有名である。
また、ポパーの、真理の定着過程における、仮説の成立とその反証可能性を明示的に示した科学の漸次的発展に関する科学方法論もよく引き合いに出される。
しかし、そもそも「知る」とは何か、その限界を理解した上での「真理の探究」とはなにかという問いかけまで遡って、日々の研究を振り返る事はほとんどない。

ガツガツと研究する、そのような日常に根本的問いかけをもたらしてくれる一冊である。うえに述べたクーンやポパーの科学論に対するその後の評価とともに最近の科学論の一端もあわせてかいま見る事ができる。

「選択の限界」ゲーム理論。なるほど完璧な民主主義などはないのだということが実に明解だ。

「科学の限界」、不確定性原理、これはおなじみだ。
そして
「知識の限界」、自然科学の基礎中の基礎、自然数論における、証明されたゲーデルの「不完全定理」。
この最後のところが、とても面白かった。もちろん数学の詳細は何も記されてはいないし、私に分かる訳もない。
しかし、「知る」という作業の根本に関わる重大な限界に関してこのような展開があることは大変興奮させられた。
この部分の進展には目が離せないだろう。

なかなか読み易い科学哲学入門書であった。