歴史とは何か (岩波新書)

歴史とは何か (岩波新書)

これは1960年代初等の作品であり、すでに75版というから、岩波新書クラシックの名作なのだろう。最近、私はやたら歴史づいているので、「歴史とは何か?」との根底的問いかけを知りたくて手にした。
もちろん、これは人間の歴史のことである。しかし、歴史ということばは、宇宙の歴史、地球の歴史、生命の歴史という自然世界のことにも使う。そちらはまさに私たちの領分だ。
しかし、人類の歴史は人類学、考古学の対象となる。そこはまさに境界領域である。一体何が違うのか?とは古くて新しい課題でもある。
この本は、それを人文社会科学としての歴史学者の側から問うたものである。
おまけに著者は世界の中心たる、当時のケンブリッジ大学歴史学教授。いわば20世紀をリードした歴史哲学を語ったものだ。

自然の歴史は、自然の原理ーすなわち物理化学法則と生命進化により理解すべきもの。これは納得。たとえば、自然界の歴史をことばを置き換えて、宇宙の進化、地球の進化、生命の進化、人類の進化といってもあまり違和感は感じない、というか、その方が適切なような錯覚に襲われる。単に歴史と呼んだ時に、そこには時間の矢(方向性)は見えずに、単に時間的推移による変化の記述と見える。しかし、「進化」と呼んだ時には、時間の矢、すなわち不可逆な過程を見ようとする科学の側の意思が反映されている。ただし、進化とは何か?との問いは残る。それは今流に言えば、「複雑系」の課題だ。

人間の歴史。いまからたった40年前ではあるが、やはり今とは様相が異なる。
なぜ人間の歴史を研究するかの目的は、「事件」の因果関係の一般的命題を探る事であり、それは未来へ役に立つためである、とは明解だ。だから、時の場面場面で、知りたい因果関係の中身が異なって来るので歴史の研究はつづく。すなわち、研究する時の価値観がそこには入り込む。これもわかり易い。

慣れない分野の「歴史哲学」で知識もなく、おまけに1つの文章が長いので、ヒーヒーいいながら読んだが、再度読んでみたいと思う。


ただ、上に述べた人間の歴史から教訓を引き出し、それを社会の所業に反映させれば、どんどん社会は良くなるはず、という歴史学者の矜持のようなものが見える。
その「進歩史観」は部分的には賛成するが、歴史は一方向ばかりではなく、まして21世紀、人類が未曾有の危機の直面しようというとき、あるいは人類の大量絶滅の危惧が叫ばれる時に、どのような未来を歴史学者は描こうとするのか、問うてみたい気がする。
それは、未来に対して時間は永遠であり、人類社会の歴史は瞬間的停滞はあっても一方向で理想の未来へ進んでいるという19世紀後半以降の幻想の中にあった時代の歴史観ではないのかと思えてならない。