アイヌ神謡集 

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

昨日は、ことばの歳時記のことを書いたが、今日はその作者の父、金田一京助氏の尽力により、知里幸恵が大正11年にまとめたアイヌの動物の姿をした神々の物語の読書録。

知里幸恵知里真志保の物語は、私が北海道にいたこどもの頃、聞かされていた。
19歳というあまりにも若くして命を落とした知里幸恵の悲劇性と、知里幸恵の民族の誇りを胸にアイヌ差別への静かな告発は、昭和30年代、北海道で子供であった私の胸にも静かに沈殿していた。

不思議なものだ。
昨今、専門外のいわば趣味として、人類の未来を考えたいという思いは人類の過去を知りたいという思いへとつながり、それを身近な日本人起源論を通して見てみたいと広がった。
原日本人論と北海道のアイヌ人とは深く関わっている。


そこで今一度、かつての記憶を呼び戻したいと本書を手にした。
見事に、描き出されているアイヌ人の自然観。
動物たちに神々のこころと人間のこころを映し出し、自然界の理解とモラルを同時に謡い上げる。

弟である知里真志保のあとがきによると、
ユーカリには動物や植物を神々に見立てたもの、人間の始まりを謡い上げたもの、英雄を謡い上げたものなどがあるという。
そしてそれはあたかも、アイヌ社会の発展を示す時系列であるかのようである、という。

すなわち、そこに「私たちはなにもの?どこからきてどこへいくの?」という問いに対する回答が埋め込まれているのである。
これはおそらく、全ての人類に共通したものである。文字を持たない時代、リズムに載せて謡う事で記憶を最大化し、情報を最大化する。そして人の知恵を蓄積する。
人類が生まれたはるか昔から、このように知恵を受け継いだに違いないと思う。

英雄伝説には、大陸からの渡来人と闘ったことの伝承も見られるという。
弁髪をした人であったから、それは和人ではなく中国から渡って来た人だったのではないか、という解釈も興味深く呼んだ。