地質学の巨人 都城秋穂の生涯 第1巻 都城の歩んだ道:自伝

「地質学の巨人」都城秋穂の生涯〈第1巻〉都城の歩んだ道:自伝

「地質学の巨人」都城秋穂の生涯〈第1巻〉都城の歩んだ道:自伝

昨2008年、7月、事故で亡くなられた都城秋穂先生の遺稿が出版された。
パソコンの中に残されていた原稿であったという。
長年、先生と親交のあった丸山茂徳、磯崎行雄の両氏と、地球科学の歴史にも深い熊沢峰夫氏の編集による。
全三巻で、第二巻まで出版された。先日の岡山地質学会の折に注文していたものが届いたので、第1巻を早速読んだ。

先生の生い立ちから大学へ至るまでからはじまる。地主の子、厳格な父のことーー、戦前の戦争へ突入して行く社会情勢の中で、冷静な都城マルクス主義との出会い、それへの疑問ーー。
都城がなぜ都城なのかの原点がよく理解できる。
また、そのことへの自己分析が圧倒的迫力で伝わって来る。

私は、1984年に玉木賢策氏とオーバニーの都城先生を訪ねたことがあった。もちろん初対面である。
その時に、
「私はいつも孤立する人生でしたからね。そのことに悩み、孤立する人間を描いた文学は徹底して読んだのですよ。古本屋に行ってその著者の本を全部買ってーー。でも、あ、これは違うと思ったら、その本は、そのまま全部再び古本屋へ戻すんです、ハハハー」ともの静かに笑顔でおられたことを思い出す。

大学。東大地質学教室の人間模様とその中で孤立する都城
日本における地質学、岩石学の遅れへの徹底的な考察を、個人名を具体的に挙げながら、時に直裁に、驚くほどの表現で記されている。
この直裁な記し方が、強烈な印象で伝わって来る。
戦後の長い間、罵詈雑言が飛び交う中で、冷静に意見を述べることが如何に大変であったか、との歴史がある。
その意味での残像のようにも読めるし、また公開されることを強く意識し、過去を見て、現在へのメッセージとして記したとも読める。
耳が痛い!と叫ぶ人たちも今だ多いかもしれない。

歴史的背景の理解なくしては、なかなか難しいかもしれないが、そのこともかなり配慮して記されている。
ただ人によっては、この歴史の見方は、自虐史観だというかもしれない。

第二巻は、かつて60年代、「自然」に連載されたシリーズの復刻版である。
私は、かつて何度もコピーを読んだが、改めてじっくりと読んでみる事にする。
地質学の歴史と、科学哲学的所論である。私もかつて、大学院時代、そしてその後も何度か繰り返し読んで、その深い考察に感動すると共に、私はある種、やや異なる意見を持った記憶がある。それを反芻してみたいと思う。

第三巻は、10月中旬発行予定という。
思想と学問:戦後日本の地質学の軌跡。
この巻が大きな議論を巻き起こすかもしれない。一方で、歴史の清算が促進されるかもしれない。
いずれにしても大いなる楽しみである。

なお本書は、いまだAmazonにもないので、
興味のある人は、書店へ直接注文するといいかもしれない。

勝手に紹介させていただく。
113-0023 東京都文京区向ヶ丘1-20-6 東信堂
http://www.toshindo-pub.com/

ただし、なぜかその出版社HPの新刊案内、予告にいまだないのであるが。発行日は、今日になっている!