背信―待ち続けたラブレター

背信―待ち続けたラブレター

背信―待ち続けたラブレター

今朝の北海道は、昨日までとは一転し、凍てつき雪の舞う空であった。

北海道へ帰るたびに、北海道の本を買う。
今回は2冊。札幌駅近くの紀伊国屋書店の「北海道の本コーナー」で手にした。 

これはその1つ。

背信―待ち続けたラブレター/森久美子
タイトルにも引かれたが、ぱらっとめくって、大正―昭和と生きた北海道の女性の物語と見て、手にした。

舞台は空知―札幌ー富良野―夕張など、私の両親と祖父母たちが生きた場所と重なることも手にとるきっかけ。
帰京の空港、機内で読み始め、羽田でのバス待ち時間に一気に読んだ。
久しぶりの読書である。

主人公の廣子、ヨシノは祖父母の世代よりやや若い。おそらく作家の祖父母の世代。
私の父方の祖母は夕張など各地を巡り、母方の祖母は富良野。そして、両親は空知を転々とした。
この小説の舞台と世代がだぶる。背景の地域の山河もリアルに浮かぶ。夕張,千鳥ヶ淵のレンガ作りの発電所も。

廣子。おそらく札幌女子師範。制服の描写に母の戦前の古い写真がダブル。
賢くも貧しく、字が満足に書けないヨシノにかすかな祖母の姿がダブル。
76年目のオーストラリアにおけるハレー彗星の到来の場面は、私らが遠い南太平洋の調査中に白鳳丸船上だった時、皆で日本では見えない「ほうき星」を双眼鏡で満点の星の中にくっきり見た時の場面がダブル。

ふるさとの大地で、一生を駆け抜けた北海道の女の物語が胸に迫る。胸の詰まる青春と、30年後におとずれた晩節の穏やかな幸福を描き上げた人生讃歌である。
読後に爽やかな余韻の残る作品であった。