副大臣申し入れ

昨年末の事業仕分けで、理工系20学会が連名で申し入れたが、今度は内閣府総務省文部科学省の各副大臣との懇談の機会があるので、急遽それぞれの学協会から見える問題点と課題を整理して知らせて欲しいとの連絡を、日曜日いただいた。コミュニティーの議論にかける時間がないので、独断で整理し、提出した。このような1日足らずの時間でのやり方は健全ではない。従って、下記の整理も不完全であることは間違いない。私の個人的意見表明だと思っていただきたい。多岐にわたる複雑な問題と課題を整理し、1字1句、合意を得た表現にするためには、時間が必要だ。
以下のものを20学会で、更に整理して提出する予定とのことです。仔細は10日発行予定の連合電子ニュースに掲載します。

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(社)日本地球惑星科学連合会長 木村 学

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地球惑星科学連合関連の問題点と課題

A。学会活動に関する問題点と課題

1。地球惑星科学連合は学会活動として、3大事業(学術推進事業、教育普及事業、社会還元事業)を設定しているが、これらを一層発展させるためには財政基盤が大きな問題となっている。それらを解決するためには、公益法人化による民間寄付行為に対する税制優遇措置の奨励と拡大が鍵である。現在学協会に対する公益法人認定作業が遅れているかに見える。加速することが重要である。

2。影響力のある日本発の国際ジャーナルの発行は、この国の科学的成果を空洞化させないために重要である。学協会の自立的財政の確立により発行するのが基本であるが、そこに至る過程では一定の国による集中支援が必要である。しかし、現在の科学研究費支援による年度ごとの入札制度や限度額設定は、著作権知的所有権維持、アーカイブ化必須のジャーナル発行となじまない。大幅な改善と充実が必要である。

3。基礎科学分野の学会は財政規模が大きくはなく、年大会は数千人―1万人規模であっても大学キャンパスや安価なコンベンションセンターに頼らざるを得ない。その準備・実施は大学人、研究者の大きな負担となり、本来の研究・教育活動を圧迫している。このことは欧米諸国に比べて大きく立ち遅れている点である。日本においては数千人から1万人規模の安価なコンベンションセンターが、特に首都圏では極めて限られている。また設備も古く、最新の電子システムに対応していない。この早急な改善は科学技術立国として必須である。

B。研究活動に関する問題点と課題

1。地球惑星科学分野は、その科学の特徴としてグローバル展開あるいは日本列島域における継続的連続的地球観測が必須である。その維持、観測技術の向上に対応した設備の更新は欠かせない。地球環境、資源エネルギー、グローバルおよび国内自然災害に対応した観測体制が十分とは云えない。効率化を図りつつ国際的にもリーダーシップを発揮した観測体制の確立が急務である。

2。地球惑星科学における基礎研究、すなわち太陽系内外惑星研究、大気海洋環境システム、地球内部研究、深海底研究、極限生命体研究、地球と人間との相互作用研究などは、地球と人間に関わる未来設計のためにも必須である。日本ではその分野に対する研究投資が急速に減少している。欧米先進諸国は、これらに対しても研究費をバランスよく配置し、総合的発展をはかっている。大幅な改善が課題である。

C。人材育成に関わる問題点と課題

1。ポスドク問題は、地球惑星科学分野においても極めて深刻化している。近年はその影響が全国の大学における博士課程進学率の激減へと連動している。このままでは、確実に我が国における科学を継承する人材の枯渇、永久的な海外流出へとつながる。キャリア支援活動の一層の充実をはかる必要がある。国の理工系事務官は欧米並みに全て学位取得者を採用することなど、国策として率先した抜本的対策を講じ、社会全体として科学と技術の次世代育成をはからなければならない。

2。初等中等教育における理科離れ、先進国中でも低い順位の国民の科学技術リテラシーの普及と向上は、科学と技術によって国の発展をはかる上で、次次世代育成、国民理解の両面から見て極めて深刻な問題である。大学受験資格の単位制の検討などによって、過度に受験科目の偏った現在の受験体制を改め、若年層から広く理系科目の全ての履修が可能となるような教育システムを検討、導入すべきである。また、初等中等教員が教科指導に専念できる環境が保証されていない。科学技術リテラシーの向上のためには職務環境の改善が必要である。

3。科学の成果を広く国民に普及するアウトリーチ活動の活性化をはかる必要がある。そのための官民、大学、法人をあげての支援事業の拡大は必須である。

D。大学における問題点と課題

1。この間のCOE、GCOE制度の導入の一方、運営交付金のほとんど限界までの削減によって、大学間の格差は拡大し、科学の発展、教育に深刻な影響が出ている。 選択と集中は必要なことではあるが、高い峰と広い裾野のバランスが採られなければ、高い峰の継続的発展はない。GCOEの適切な集中的投資を継続しつつ、大学への運営交付金の大幅拡充は必須である。

2。多くの大学で競争的資金の間接経費などが、本来運営交付金でまかなうべき教育経費へ実質まわさざるを得ない現状は、早急に改善すべきである。それは運営交付金の底割れが原因となっている。

3。研究教育支援スタッフが大幅に不足している。研究と教育に集中すべき大学教員に、事務的実務作業の負担が大きくかさなり、研究と教育の質の低下が起っている。特に地方大学の負担増加が著しい。TA, RA、事務補助制度の大幅改善が必要である。
以上