国崩壊への決壊口ー財政一割削減への見解

打ち出された成長戦略の中で、不十分な科学・技術、教育政策の下での機械的一割削減の方針は、この国の存亡に関わる重大な危機であり、「国の崩壊の決壊口」となる。強く警鐘を鳴らさざるを得ない。

1。国の存亡への危機の表明:
機械的一律一割削減の方針は、これまでの大学運営交付金削減で教育・研究維持の限界に達している大学の急崩壊を意味する。国の人材養成や知的生産活動の基盤を支える大学、大学院教育政策の全面検討なしの一律削減は、当面の財政再建に留まらずこの国の存亡を揺るがす。この分野への一律削減を撤回し、逆に重点投資すべきである。

2。新科学・技術政策の弱点と国の崩壊への決壊口
新成長戦略における、グリーン・ライフイノベーション、それらを支えるプラットフォーム、そしてそのプラットフォームを盤石にする人材やイノベーションの芽を作り出す大学における基礎科学分野は削減とは逆に重点投資すべき分野である。しかし、この新しい科学・技術政策においてプラットフォームを支える大学の役割が不明確である。そのままでの大学運営交付金の一割削減は、この新科学.技術政策自身が数年を待たずに行き詰まることを意味する。それは国の崩壊の決壊口となる。

3。人口減の中での日本の成長を支える大学政策の確立の緊急性と順序
大学間格差の急拡大と総体として国の知的生産力の急速な弱化という文部科学省が実施した法人化以降の大学の現状の総括を無視し、大学政策の確立なしの更なる運営交付金の大幅削減は、一部に留まらない日本の大学の全面崩壊をもたらす。大学の自立的成長を促進する大学政策を明確にした後に、それと整合性の取れた財政政策を打ち出す順序を絶対に間違えてはならない。

4。科学研究費
科学・技術の基礎研究を根本から支える科学研究費への公的投資はGDP1%程度への一層の増加が求められている。先進国においては、それらを優先して実施し国の基盤を盤石とする政策を取っている。この分野への大幅な経費削減は基礎研究の崩壊をもたらす。基礎研究への投資なきイノベーション選択集中では、そのイノベーションの維持すら急速に困難となる。

5。地域社会と大学
日本の地方大学は地域における人材養成と産業を支える重要な役割を担って来た。法人化以降、大学における自助努力が積み重ねられて来たがその努力は限界に達している。それに対しての更なるかつ大幅な削減は地域社会の崩壊をもたらす。

6。大幅授業料値上げと教育機会均等の崩壊
一割削減を大学に適用した場合、大学の取るべき道は授業料の大幅引き上げしか残されない。国立大学の位置づけは有用な人材発掘のための教育の機会均等提供にあるにも関わらず、それが崩壊する。大学進学率が5割に達する中、相対的に安い授業料で質の高い人材を養成して来た国立大学の機能が崩壊する。