アイヌの世界 (講談社選書メチエ)

アイヌの世界 (講談社選書メチエ)

お会いしたことのない著者の瀬川拓郎氏から、本書を贈呈していただきながら、東日本大震災があり、あまりにもの忙しさのために礼状も出せずにあった。前作の「アイヌの歴史」をお茶の水丸善で手に取って読んだ感想をブログに載せたのが著者の目に止まったようで、わざわざお送りいただいた。読んで感想を記すことが礼と思いつつ、連休まで忙しさで読めずにいた。

全人類の進化や、日本人の起源論、アジア・日本の全歴史の中に、アイヌ民族の位置づけ、アイデンティティーを明確にしよう、それも自らも住む上川、旭川を基礎に取り組んでいる著者の姿勢と迫力が伝わってくる。このようなグローバルな視点から考察することには大変知的好奇心をそそられる。従来の常識に挑戦する姿勢も迫力だ。カメラとメモ帳を持ちながら、いつも考えて歩いている著者の姿が目に浮かぶようだ。

「私たちはなにもの?どこからきてどこへ行くのか?」を負い続けるものには共通の思いがある。このことへつながることには何でも興味がつながってしまうのだ。そんな氏の貪欲な息吹が伝わってくる。
本書での東北地方と行き来、奥州藤原氏などとの活発な交流の記述などは、平安時代初期(869年貞観地震)に起った今回並みの東北地方の大地震津波を当時の人はどう受け止めたのかということとだぶってしまう。

私は道産子であり、昔北海道の大地の変動と成り立ちを研究していたので、北海道の大地と人のことは常に高い関心の中にあり、常に考えの起点となっている。単に北海道地域の事象としてではなくグローバル事象の中で理解したいと思って来た。北海道考古学、自然人類学、歴史の理解はグローバルな視点で見た時に日本列島の中で独自の位置にあることを本書は教えてくれる、またとない書だ。

5月1日付け朝日新聞のglobeで最新人類進化論と日本人起源論の特集が載っていたが、その分野の今はDNA分析という新しい科学の武器を獲得して急進展しているとても熱い分野だ。これらの分野は私に取っては専門外ではあるが目を離せない。著者の引き続く御活躍を期待したい。