親切の輪

10日、四万温泉での合宿を終えて、バスで帰京の途についた。八重洲行き直行バス。客は5人。絶対的赤字間違いなし。

一人の老婆が、運転手と話し始めた。切符がセブンイレブンというのだけれど近くになくて苦労した。それで八重洲パス呈停前のセブンイレブンへまで出掛けた。でも発券はパソコンで自分でやれという。分からない。店員も分からない。なんだかんだで1時間以上も掛かってしまった。帰りは旅館で発行してもらったけれど、来る時にまた大変な苦労をすると思うと、気が重くなる。温泉はとてもよかっただけれどーー。

運転手、会社に直接電話してください。週末は満席になるけれど、普通の日はガラガラ。直接、バスへ来ても大丈夫だけれど、心配だろうから。と大きな字でメモを渡す。そうだ、チラシがあった、とそれも。
そのために出発が少し遅れたけれど、お婆さんの何度も繰り返す同じ話を「うんうん」とじっくりと聞き、その一生懸命の運転手の姿に微笑ましさを覚えた。お婆さんは、最後は「これで安心だ」と満面の笑みで、少ない客にそれもまた微笑ましく、「ごめんなさいね」と。遅れなぞ、なんのその。いい場面。

八重洲に着いた。東京も寒い。もう夕刻。いそいですぐ近くから出ている、自宅前まで行く高速バスに乗り換えた。さて、今日撮った写真でも見るか、と腰に手をやると「デジカメがない!」
はっと思った。四万温泉からのバスを降りる時に、ゴトっと音がしたが、気にせず降りたのだ。
あれだ!
まだバスは車庫についていないはず。でもバス会社の電話番号がわからない。あの老婆のように、チラシを貰っておけばよかった!後の祭り。
学生たちは1日遅れで帰って来る。バスは明日四万温泉に戻り、それに乗って彼らは帰ってくるので、電話して確保を頼もう。

つながった。やはりあった!でも、運転手が変わり明日は難しいという。「車庫へとりに行きます」。でも車庫には常駐者はいないという。本当にわずかな運転手だけでやっているんだと実感。

結局着払いで送っていただけるということで、昨日届いた。カメラも大事だけれど、そこに写った写真は2度と得られない一期一会の宝。

人の親切の輪で、宝が維持される。そんな温かい一日だった。湯気の立ち上がる温かい温泉の湯のように。
千と千尋の神隠し、その場面のモデルとなった古い温泉旅館。こころを解きほぐす「神」が住んでいたのかもしれないと思いたくなる。