人生最大の大手術(2)-激痛、幻聴のリズム

人生最大の大手術(2)-激痛、幻聴のリズム
二度目に目覚めたのは、手術翌日の早朝のようだ。「今、何時?」と聞くと看護師さんが「三時半頃」とこえてくれたが、午後か午前かは分からない。長時間麻酔の後はそうだときいていたが、確かに。
目覚めと同時に、痛い!
口からは、酸素マスクのための管が入れられており、喉には人工呼吸へつなぐ穴があいているとか。
唇と喉が乾いて舌なめずりをしてもボロボロ。息苦しい!喉が癒着してしまいそう!
「水、水、水!」
恐らく脱脂綿にしみこませた水が塗られた。
「これ、生き返る!ありがとう!」
急に喉が楽になる。でも直ぐに、次の苦しみがきた。
痰がからむのだ。でも切ろうとすると胸に激痛が走る!咳、痰きりができなことは、とたんに呼吸困難の恐怖が襲ってくる!
「痰が!痰が!」と恐らく叫んでいる。
看護師が、吸引してくれて難を抜けた。
これから、痰をやわらかくするために湿度の高い酸素吸入をしますから、少し痛くとも痰は自分
切ってください。それが回復を速めます。
(何度も出来ず、はじめて痰切りができたのは術後三日目であった)。
息をすることも痛く、体は集中治療室のベッドの仰向けのまま張り付いている。
この激痛からの出口が見えない。
激痛への疲労と、湿った脱脂綿の水のもたらした安堵と、恐らく鎮痛剤の投与によって、直ぐに再び眠りに落ちた。

午前??時。三度目の目覚め。もう明るいので恐らく午前中。
集中治療室では、朝に患者の清潔のための全身体拭きが行われる。
これが、実は患者に取って、とんでもない激痛なのだ。

看護師が二人がかりで横向きにさせて、背中を拭こうとする。いててて〜!
体には喉に呼吸のためのパイプ、肩口大静脈には点滴群の入り口、おへその横左右二カ所には体内の水と血たまりを抜くためのドレイン孔二カ所、膀胱へ尿道を通すパイプ、そして足には、人工水臓器へつなげるこれまた点滴ライン。
そのパイプ群のど真ん中、胸の上からみぞおちからを通りへその上まで、ざっくりと胸を開き、そして縫った傷がある。体を動かそうとすると、それらが一斉にうずき、激痛が走るのだ。
「痛さは我慢してくださいね。鎮痛剤は、間四時間空けないと使えないのです。」
<なに?それって。ひょっとするとモルヒネ?> 聞く元気もない、思っているだけ。

体を拭き終えると、痛みを終えた安堵から、またすぐに眠りに落ちる。完全にもうろうとしている。
何度目の目覚めかも、分からなくなって来る。

ある目覚め。キラキラととても眩しい。眼鏡がないので全てがぼやけている。
でも、集う看護師とその会話が耳に入って来る。なにやら笑いながらの楽しそうな会話だ。ぼりぼりとスナック菓子でもほおばりながら。聞き耳を立てると何やら私のことを話しているようだ。でも、内容は一切分からない。そしてまた眠りに落ちた。
また目覚め、同じ場面が繰り返す。
そして、私の中で気がついた。
<あ、これはある種の幻聴の類いではないか?>
激痛、強い薬、極限の中で起こる精神異常状態の中で幻聴、幻覚。
そう思いはじめると、もはや、その「会話内容」も気にならなくなり、少し安堵が生まれた。
激痛、痛みの緩和、眠り、その数時間スケールのリズムが生まれ始めている。
そして、静かに目を閉じて、我が「痛み」の分類でもしてみようかと思い始めた。
(つづく)