サハリン・犬物語(3) 犬のこころ

二日酔いの寝起きの悪さを打ち破るように、外が騒がしいことで目が覚め外へ出た。
「なんだ? 騒々しい』
『オ!子犬が戻っているではないか!』

夜明けに親犬が吠え、「熊が近づいたか!?」と灯台守のロシア人が外へ出ると、親犬が脱兎のごとく吠えながら走っていったという。
そして、なんと、子犬を連れて戻って来たのだ!

犬の集団と灯台守がおおはしゃぎで、うれしそうにしている。

私は、その光景を目の当たりにして、
「犬だって人間と何も変わらない。子を思う親の気持ちは全く同じなのだ!」
とあったかい感動が広がった。

目一杯しっぽを振り、はしゃぎまわり大喜びする犬の集団。人間の顔も皆ほころんでいる。

私の二日酔いの気持ちの悪さが、爽やかな安堵へ変わっていった。

私たちや親犬たちからはぐれたその子犬は、熊が徘徊する夜を、恐らく身を震わせながら一睡もせずに過ごしたに違いない。
そして、夜明けとともに、地面に鼻先をこすりつけ、私たちと親犬の匂いを追い求め、ついに見つけたのだ!
帰って来た子犬のその小さな体は夜露に濡れ、泥んこであった。
灯台守の与えたエサをむさぼるように食べ、安堵したように眠りについたのである。

「さ!今日も頑張るぞ!犬たち頼むぞ!」
私のそれまでの彼らへのうっとおしいという思いは、彼らはかけがえのないパートナーかもしれないという思いへと変わり始めていた。

一緒に着いて来る彼らを見ていると、実は彼らにも絶好の狩りの機会となっていたのだ。
食料は、私たちも灯台守も限られている。犬のための食料を十分に与える余裕などない。
しかし、彼らは、灯台から遠くはなれてついてくる事によって、野にいるネズミ、モグラ、リスなどの小動物をハントする絶好の機会となっていたのだ。

あるときその場面に遭遇した。
獲物の野ネズミを見つけた親犬が飛び跳ねて瞬時にしてつかまえ、バリバリと食べ始めた。
そして、全部を食べずに子犬にも分け与えたのである。

「そうか!、子犬を連れてくるのは、生きるためのこの狩りを教えるためでもあったのだ」
と私は自然の厳しさの中で生きる彼らのたくましさに再び感動した。

そして、調査の合間の昼食をとる時に、私たちの食べる黒パンのかけらを少し与えるようになった。

そんな調査が順調にすすんだある日、彼らがすばらしい人間のパートナーであることを決定づけ、私の犬に対する思いを根本からくつがえす事件が勃発した。

(つづく)