橄欖

むずかしい字だ。「かんらん」と読む。
今日は午後から立て続けに駒場キャンパスで講義だ。
中休みに、講義をやっている駒場1号館から、一服しようと外へ出た。

横に、モニュメントがあったのを思い出した。
この老木は、夏目漱石と同じ歳で、一高の教頭であった斉藤阿具がドイツから持ち帰ったものとある。
よっぽど気に入ったのか大事にし、一高が移転するたびに一緒に移転したという。


ここにこの老木があることをどのくらいの東大の地球科学関係者が知っているであろうか?
このネタ、さっそく次の授業で学生に聞いてみよう!

かんらんとは私たち地球科学には、なじみが深い。
橄欖とはオリーブのこと。
だから橄欖石(オリーブ石)はオリビン(olivine)といい、かんらん石と呼ぶ。
この石は、地球の大半を占めるマントルを構成する石だ。
だから、私は授業で良く聞く。
マントルって何色?」
「赤!」
「黒!」
いろんな答えが返って来る。
「いえいえ、そうではありません。きれいなきれいな緑色なのです。それもオリーブのような薄黄緑から深い緑までいろいろ」

「ええ!では、それは宝石ではありませんか?」
「そうです。きれいなものはペリドットという宝石ですよ」
「んじゃ、マントルまで掘れば大もうけじゃないですか!!」
「そう、日本が建造した掘削船<ちきゅう>は、近い将来、マントルまで掘ることを目指しています」
「ええ!本当!大もうけですね!」
「いえいえ、儲かりはしないでしょう。とんでもないお金がかかりますから」
「んじゃ、なぜ目指すんですか?」
「生きたマントルまで人類は行った事がいまだないのです」
「そこへ行ってみたい!そして本当にオリーブ色なのかを見てみたい。生きているマントルってどうなっているのか触ってみたい」
地底探検の夢なのです。
「行ってみたいって思うでしょう?」

「んじゃ、先生! 生きたマントルまで人類が未だ行ったことがないのに何故、色が分かるのですか?」

「それは、なかなか、いい質問だね」
掘った事はないのだけれど、マントルからやってくる火山の爆発とか、山がぶつかるとかが起こる時にマントルの石を引っ掛けて来てるんだ」
「日本で有名な火山では、秋田の「一の目潟」という元火山。君はそこの出身だから知ってるよね?オリーブ色したマントルのかけらが、吹き出したマグマに取り込まれて地表に出ている。ぶつかった例では北海道、様似町のアポイ岳。アポイは世界でも有数の大きさのマントルのかけらが、衝突で日高山脈が出来た事によって、マントルが山全体に出ている貴重な例なんだ」
「それらは皆、きれいな緑色をしているからね。でも、みーんな、死んでる」

「んじゃ、生きてる、死んでるって、何が違うの?」
「君は鋭すぎる。それを知りたいのさ!すばらしい岩石学者、マントル学者がたくさんいるから彼らに聞くとしよう」