アイヌの歴史

アイヌの歴史 海と宝のノマド (講談社選書メチエ)

アイヌの歴史 海と宝のノマド (講談社選書メチエ)

これは目鱗の書だ。私はもちろん専門外であるが、北海道の明治以前の歴史を知る改新の書だと思う。
そこは明確に日本ではなかったのである。


考古学的な観察事実と歴史文献学的な断片的記録、それに植生、動物の生態学的考察、自然地理学的な考察を重ね合わせて、アイヌ民族とその先祖たちの二千年に及ぶ歴史を推察する。
特に迫力を増しているのは、著者の在住する旭川上川盆地と隣接する富良野盆地を具体的研究対象として、引き出した6〜7世紀頃の縄文文化時代から擦文ーアイヌ文化時代へのエコシステムとよぶ、ヒトと自然の関わりの大転換の仮説だろう。最後の章における、そのことのヒトの歴史における一般的意義の議論も優れて響いて来る。
このような研究の成果が、ただ日本語でのみ書かれている事はなんとも惜しい。

歴史的事象に関する事実の整理、そこから事象に共通する事柄と地域性等の個性的事柄を整理し、それぞれの原因を考察する。そして全体としての時間変化に伴う本質的事象を描き出し、トータルとしての歴史を理解する。それは自然科学においても時間変化を取り扱う科学(地球の歴史、生命の歴史など)においても共通なのであるが、自然科学の場合はそれを、自然を支配する物理化学的法則と生命進化の法則によって理解したい、できるはずと思う事である。それに対しヒトの歴史を支配する要因は、そこにヒトのココロの問題(本書の副題には、宝のことばがある)がやはり入り込むのであろうか?
本書はそれを言っているようでもあり、言っていないようでもある。
しかし、そのココロの問題はやはり集団としてのココロであり、それは生命の進化と同じものとして取り扱える対象なのであろうか。私には後者に思えるのだが。だとすると、それは生命の歴史の一部を構成されてしかるべきことでもある。
地球の歴史を支配する法則とは何か、生命進化を支配する法則とは何かとは、問われ続けている極めて重要な科学のテーマでもある。
そんなことをつらつらと考えながらの読書。
おもしろかった。