世界は分けてもわからない

お盆休みの間の読書、その1

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

福岡伸一氏の著作は、ほんとうにすばらしい。
部分と全体、微分積分動的平衡などは、科学の最前線にまつわる「哲学」的命題としても多くの関心の的であり、私も常に頭の中にあり続けている課題だ。
この書は、そのことを分子生物学のみならず、芸術、人のこころと機能、文学におけるメッセージ、を縦横無尽に駆使して描き上げている新書とは思えないほどの秀逸な作品だ。
後半は、80年代にこの分野の最前線で起こった、リン酸化カスケードねつ造事件を、サスペンスのごとく、しかし科学者としての繊細な実験場面描写をまじめて、そこからの教訓ともいえることを伝えている。20年以上も前の激烈なアメリカ社会における科学競争社会をえぐり出しているが、それは、暗に現代日本ポスドク問題を含めた異常とも言えるほどの、点数主義、成果主義の抱える暗部への警鐘とも受け取る事ができる。
最前線に忍び寄る誘惑。それを乗り越えた時に真の科学先進社会が構築される。