連合ニュースでの巻頭言

昨日、ニュースで以下の配信をしました。

日本地球惑星科学連合・会長 木村 学

 日本地球惑星科学連合加盟の団体会員・個人会員の皆様,新年あけましておめでとうございます.年頭にあたりひとことご挨拶申し上げます.
 昨年末,連合は多くの理数系学協会・個人と共に「事業仕分け」による今後の日本の科学・技術・教育の行方に懸念を表明いたしました.このことを通じも,自らの襟を正して一層学術活動を展開すると共に,大胆な国際活動,国民への広報普及活動などの拡大の必要性が明らかとなりました.
 連合は,一昨年,それまでの学協会間の大会共催,調整機能を主とする組織から,加盟学協会との「共存共栄」をはかりながら学術発展事業などの活動主体としての組織への改革を進めるために社団法人化しました.さらに昨年末,一層の影響力ある団体への発展をはかるために公益法人化の申請をいたしました.
 本年5月の大会は,これらの改革を受けて実施されるはじめての本格的大会となります.3千件を超える研究発表の見通しを良くするために,「セクション制」の導入による調整と整理,科学の最前線を徹底討論するためのユニオンセッションの充実,最新の科学的成果を分野を超えて分かりやすく会員へ普及するための大会場での特別講演など,新企画を設けます.さらに,ホームページの完全英語版を実現しましたが,大会においても英語で実施する国際セッションが全セッションの約20% というこれまでにない規模で開催されることとなりました.社会へ広く開かれたパブリックセッションや一般へ地球惑星科学の最前線を分かりやすく普及するトップセミナー,高校生による発表セッションなども引き続き開催いたします.その他にも多くの新しい企画が検討されております.新しい連合大会に期待していただき,多くの皆様にご参加いただけますようお願いしたします.
 さて,21世紀も2010年代に入りました.これを機に,連合の長期的展望と戦略について考えてみたいと思います.連合は法人化にあたり,学術推進事業,教育普及事業,社会貢献事業の3本柱の事業推進を掲げました.また,事業を展開するにあたり,学術的には欧米と並ぶ「世界の3極」の1つを担うリーダーシップを確立するという戦略目標を設定いたしました.この具体的展開は,大会において多くの海外からの研究者が参加可能な国際セッションの開催と,科学の成果を定着させる影響力ある国際ジャーナルの発行です.近い将来,国際セッションの開催が半数近くに及び,文字通り国際色豊かな大会となることが目標です.そのためにアジアおよび環太平洋地域における近隣諸国,国際連携が欠かせません.国際ジャーナルの発行は国際的な激しい競争を勝ち抜き,真に影響力のあるものとしなければなりません.この間検討を進めてきた,完全電子発行によるレターおよびレビュー誌発行を,加盟学協会との連携を基に早急に実現し,世界のリーディングジャーナルとして定着させるのが目標です.
 一方,「高い峰と広い裾野」を実現するのも戦略的目標です.連合大会は地球惑星科学や地球環境科学に関わる多様な方々が参加できるような,きめ細かく全体を包括できる場としたいと考えております.加盟学協会・個人会員の皆様には大会を積極的に利用して多分野交流を実現していいただき,それぞれの発展につなげていただければと思います.
 教育普及事業においては,科学の成果を広く国民へ普及還元を実現することが戦略的目標です.次世代の育成,初等〜高等教育に対しても,そのあり方から具体的展開に至るまで,旺盛な活動を展開し,地球惑星科学・地球環境科学リテラシーの向上を図らなければなりません.マスメディア,ネットメディアを通じた広報普及活動,JGLなどを通じた普及活動,大会開催時の公開普及教育活動など,加盟学協会と連携しながら,権威ある情報発信を強化することが求められています.また,次世代の育成のためにも,現在数千名の高校生が参加している科学(地学・地理)オリンピック事業支援を強化することが必要です.
 社会貢献事業としては,文字通り数万名に及ぶコミュニティーを代表する組織として,社会に関わる様々なことに正確に対応できる組織となることが目標です.この間の「事業仕分け」への対応は教訓的です.国の地球惑星・地球環境に関わる科学・技術・教育政策,行政にも深くコミットし,的確かつ機敏に意見を反映させるようにならなければなりません.内閣府に所属する行政サイドの組織ではありますが,日本学術会議地球惑星科学委員会は,国の行政へのボトムアップを機能させるものとして設置されているものです.密接な連携をとりながら,真に学術会議が機能するようにする必要があります.また,この分野は自然突発災害,地球環境,資源エネルギーなど社会と深く関わる分野を多く含みます.予期せぬ事態の発生に対して機敏に対応できる体制を確立することもきわめて重要な戦略的課題です.
 10年先には,一回りも二回りも大きく発展した日本地球惑星科学連合となるべく,鋭意活動の改善を進めて参りますので,会員各位におかれましても引き続きご理解とご協力,ご支援のほどをよろしくお願いします.