青べか物語/新浦安・百万坪の大地

青べか物語 (新潮文庫)

青べか物語 (新潮文庫)

 東京に隣接したディズニーランドの街、浦安。そこに私は住んでいる。この街は東日本大震災液状化の大きな被害にあったことでもつとに有名になった。

 液状化のためにディズニーランドも半年に渡って閉鎖されたのだ。道端を眺めながらの散歩道の段差、壊れた路肩、曲がったガードレール、歪んだブロック塀、いまだその爪痕は残されたままである。元に戻るには息の長い時が必要だ。

 このディズニーランドも私の住んでいる新浦安も、今ではかつての面影さえ全くないが、ほんの50年前は旧江戸川の河口付近の広大な葦の生い茂る大湿地帯だった。埋め立て地に今でも夏になると茂る葦、地震後排水が悪化したために広がる水たまりにかすかにその時の面影が残されているのかもしれない。

 ここはかつて「百万坪の大地」と呼ばれ、たくさんの動物、魚の集う豊かな自然、そして泥まみれになって働く人たちの姿があったのだ。東京タワーが出来る頃、すなわち映画「三丁目の夕日」のあの時代だ。

 葦の生い茂るこの大地での貧しくとも明るく真っ正直な老若男女の人間模様を記しているのが、山本周五郎の「青べか物語」だ。

 持ち歩いてちょっと疲れた隙間に読む。
 散歩の途中にベンチにちょっと座り、息を整える隙間に読む。
 暑さの狭間の爽やかな風とかすかな潮の香りが、葦の茂みに隠れて汗まみれで遊ぶ子供たちと老若男女の涙と笑いを運んで来るようだ。

 つづきを読むのが楽しみ。ゆっくり読もう。