「暴走老人」

 齢80を超えた石原慎太郎氏が都知事をやめて国政に打って出るという。マスコミは「暴走老人」という。彼の政治的主張への賛否はさておいてあのパワーはどこからでてくるのであろうかとある意味感心してしまう。

 地球科学の世界でそのような「暴走老人」はいるのだろうかと思いを馳せる。現役と同じように研究でがんばる老人は世界的には多い。
 プレートテクトニクス理論が生まれた時から第1戦で活躍し、造構性浸食作用で有名なアメリカのローランド・ボン・ヒューン氏とデイブ・ショル氏は齢80を超えてもまだまだ論文を書き続け、船にも乗り、フィールドへも出かける。ローランドは昨年新しく家を立て替えたという。永遠に生き続けるのではないかと思わせるほどだ。アメリカの中でも老人パワーで有名な二人である。

 地震学者の金森博雄先生(78歳?)も、カルテックを定年しても益々ご活躍だ。日本とアメリカを往復し、東日本大震災を起こした日本海溝地震などプレート沈み込み帯でおこる地震研究をリードされている。

 私の分野ではケーシー・ムア教授だ。1昨年カリフォルニア大学サンタクルス校をあえて定年した。そして益々研究に没頭しているように見える。彼はまだ60代半ばであり、定年のないアメリカにおいては異様に早い定年なのである。その理由を聞いたところ、大学の仕事から解放されて自由に研究をしたいからだという。森に囲まれた静寂な自宅の書斎で思いに耽り研究に没頭する姿が目に浮かぶようだ。

そういえば今海洋物理学者のムンク博士来日中で御年98歳という。いまだ論文を書き続けている。という具合に次々と浮かぶ。しかし彼らを「暴走老人」と呼ぶ人は少ない。

 一方、日本では「老害」ということばがある。年寄とは社会にとってもはや益をもたらす存在ではなく害をもたらす存在という意味だ。実は最近のある経験が、これは「暴走老人」ではないかと思わせることとなった(つづく)。