大学とは何か

大学とは何か (岩波新書)

大学とは何か (岩波新書)

久々に濃密な読書をさせていただいた。吉見先生は、秋入学問題など、今東大改革の中核におられる。本書は全歴史の中で大学を捉え、日本を捉え、未来に向かって速いテンポで改革を進めることを強く訴えている。アジ演説のような迫力がある。

11−12世紀、十字軍後、ラテン語を共通語として自由に人の移動する中世都市型大学が生まれ、そこでアリストテレスが復活流布したことに著者は未来の大学を重ね合わせる。

更に中世の大学が崩壊し、宗教改革、知識革命を引き起こした印刷革命に現代のネット情報革命を重ね合わせる。このままでは大学は崩壊すると。

19、20世紀ドイツのフンボルト型大学をモデルとした国民国家のためのこれまでの大学ではもう持たない。

未来の脱国民国家時代(グローバルになるということ)の大学像を問うている。

大学とは「自由な意志」である、と著者は定義している。「新しいリベラルアーツ」。

(専門の)発見や開発だけではなくマネジメントにも注力。膨大な情報と急速に蓄積する知識を自由に渡り歩き創造性を発揮できるタフな人材をどれだけ輩出できるかで、この社会の未来は決する、ということを言っているように思う。

だからグローバルキャンパスとタフな人材。
early exposure, late specialization。改革の意図が少し分かったような気がする。

「有用な知」(役に立つ知識、知恵ということ:木村)だけではなく「リベラルな知」(すぐには役に立たない文学や理学や教養のようなこと:木村)の恊働が益々大事だと。


明治以来の日本の大学の歴史、もちろん私らの世代が経験した大学紛争総括から最近の大綱化、大学院重点化、入学者急増による大衆化までも全て俯瞰している。

世界史や日本史とくに近現代史に通じていないと読みにくいかもしれないが、歴史年表でも横におきながら是非読むことをお勧めしたい。とにかく面白い。