朝会の記録「童話の窓」(6)ハリガネ殺し

懲役人が牢屋を許されてシャバに戻ってくるとき、だれをイの一番にタヨリに戻ってくるでしょう。
いうまでもなくそれはお母さんでしょう。西洋のことわざにも「全世界が汝を見捨てても母が最後に汝の全世界となる」とあります。
 近江のある村での出来事です。ムスコは幾年かの刑期を終えてお母様を全世界と思って村に帰ってきました。
隣村まで来たがどうしてもどうしても自分の村に帰れない。何となれば村の衆が自分の顔を知っているからです。
 隣の村でとっぷり日が暮れて真っ暗になってから自分の村に入ってきて、やっと家にたどりつきました。
 「お母さん、僕だよ、僕。許されて戻ってきたよ。お母さん」
 内からはツッケンドンな声で
 「誰だい」と言った。
 「僕だよ。お母さん。許されて戻ってきたよ」と言うと、中からは一層邪険な声で、
 「お前か、お前ならどこかへ行け。お前ゆえに村の衆に爪はじきにされるのだ!!」と。ムスコは全くびっくりした。
せっかく全世界と思って、タヨリに戻ってきたのに、これじゃ村の衆がいつまでも前科者としていじめるだろう。
よしきたとうちを出ました。
内を出るときに足にからみついていたのは八条鉄線、電信ハリガネ。
 「よし、これだ」と、村の暗がりの四角で待っていた。来る人、来る人、後から飛びついて針金の輪を首に引っかけてぐっと締めて行く。
とうとう一晩のうちに何人かが無残に絞め殺されてしまいました。
 いったい、これは誰が殺したのでしょう。誰が殺させたのでしょう。
母の愛のない冷たい言葉が殺させたのだといって、お上は罪一等を減じて無期従刑。東京は南千住の小菅の監獄に長いこと入っていました。
 罪を悔い、非常に良い心に生まれ変わって模範囚。朝に晩に殺した人に対してお詫びの念仏を泣きながら唱えていたそうです。
(教育目標:人間尊重)