追憶:私とうどんと讃岐(3) びっくりうどん

坂東先生は、これらか一番おいしいうどんをごちそうするという。
私は、「うどん」と聞いただけで鳥肌が立つ。

<さー、どうしよう?でもまさかうどんだけじゃないだろう?その場で別のメニューにすればいいや>
などとタカをくくっていた。

「ちょっと遠いので車で行こう!」
香川大学のキャンパスを抜けて、トンネルをくぐっていく。
そして、道路際のうどんやに着いた。

さぬき麺業とある。
http://www.shikoku-np.co.jp/udon/shop/shop.aspx?id=22
「え!ここってうどんの卸屋?ですか?」

「そう!うどんしかないから、でもうまいんだ。ここが」
「!!!」

「木村君、ビックリうどんというのがびっくりするほどうまいから食べて見なさい」
もうはなから何を注文するか決まっている!
世の中にうどんが駄目な人がいるなど、まったく眼中にないようにニコニコとしている。

さて困った。
幸いに、いなりずしと田楽風のおでんがおいてある。
それはうまそうだ。
<うどんは、いざとなれば残せばいいや>

なんて思っているうちにうどんがやってきた。
<なんだ!これ!タライ?!>

そう、「びっくりうどん」とは、うどんが5玉、湯の中に入ったタライに浮かぶうどん、なのだ!
それがテーブルの上にどん!と置かれた。
「大丈夫だよ。5玉なんて、3時頃になればもうお腹がすき始めるから」
「ただのメリケン粉だからね」<坂東先生は巨漢だから、5玉でもどうってことないかもしれない。
しかし、いくらなんでも、5玉はーー>

と思いつつも、もうこうなったら食べるしかない!
まさに清水の舞台から飛び降りる気持ちでとはこのことである。

湯から取り出し、つけ汁に移す。
ところが麺が長いのである。箸を持つ手を上げてもまだ湯の中につながっている!

「讃岐では麺を移す時は上にあげるのでなくてねーー」
と手本を見せてくれる。
<なるほど、なるほどーー>

そして、いよいよ口へ!

<ーーーーーーー???>

麺は口の中で、なにやら独特の動きをする。
北海道で良く食していたラーメンとは全く違う。もっと柔らかい。
そして、そばとは全く違う。もっと優しく、太く、かといってふにゃっとなってしまう訳ではない。

私は全くそれまでに経験した事のない食べ物を口にしていた。
イメージしていたなにやら醤油臭くて、味気のないもの、そしてまずくて食べるとあの壮絶な場面の浮かぶ「うどん」とは違うのである。
二口目。
<お?これってうまいのかもしれない?>
三口目
<いけるぞ!これ!そもそもうどんて食えるじゃないか?>
私は、それまで食べる事の出来なかった自分がうどんを食べている、その自分に感動していた。

私のこころの何かを読み取っていたのか、坂東先生が見ている。

「どうだね?木村君」
「いやー!タライに入っているのでビックリしましたが、うまいですね!」

気がつくと5玉全部を食べていた。

「腹、起きたかね?」(讃岐弁、おなかが一杯)
「え?」(讃岐弁など全く分かっていない)

そして翌日、今度は同じ地学教室で、気象の森先生が昼食を誘いに来た。
「木村君、うどん食べに行こう」
「はい!でもタライは勘弁してください」
「すぐ近くだよ」

大学の門を出た、何のことはない住宅街。
そこに長蛇の人の列ができている。

(つづく)