追憶:私とうどんと讃岐(8)海とうどんと絶体絶命

地学にとって重要なのは様々な種類の岩石をたくさん見ること。そのことから地球を直接感ずるのである。
というわけで四国でも各地を巡る。四国は、日本の地質が凝縮されたようなところ。世界的見所はたくさんある。
というわけで、機会あるごとに学生をつれて巡検という見学授業に行く。
ところが四国は海に囲まれている。
坂東先生と行く時は、見学授業の後には「海の幸」確保!
釣りである。

実は私たち家族に取って四国へ来て困った事があった。
魚が分からないのである。魚屋へ行ってもホッケがない。にしんがない。サンマがない。スーパーへ行っても見た事のない魚がズラーと並んでいる。妻は鮭が食べたいと、高い塩鮭の切り身を買って来る。高い!まずい!
ずらーと並んでいる魚の名前はおろか、料理の仕方も分からないのである。
北海道の魚は完全に親潮系、それに対し四国は黒潮系なのだ。
しかし、である。釣りをして釣った魚は食べる。そのためには料理の仕方を知らなければならない。
これは絶好の機会である。

というわけで一石三鳥(地質の勉強、釣り、料理)の楽しい生活がはじまった。
いや一石四鳥だ。行った先では、皆、必ずうどんを食べる。場所によって微妙に味が違うのだ。
東讃岐の方が、海岸線にいろいろな石がある(ということはいい○●スポットがある)
香川県は南は鳴門に至る海岸線。西は新居浜に至る海岸線を見尽くし、全ての釣りスポットも網羅。


私ののめり込みの性格は、石が分かった後は海の幸一点に絞られた。
うどんとともに(うまいうどんは何度も食べたい)。
土日は、家族サービスも兼ねて海岸でキャンプ!(え?)
翌朝の夜明けを狙う。帰りはうどん。
「権平うどん」は、なんともうまく、家族で東讃へ出かける時は行きつけとなった。
http://ebikani.org/udon/gonbei.htm

でも普通の日は授業がある。会議がある。朝1の授業は8時半。
しかし、海の幸を思い始めると、もうむずむず。目が冴えて寝られない。
「えい!行ってしまえ!」
午前2時、仕掛け準備。午前3時出発!
「狙いは鳴門のあそこだ!」
鳴門までは車で1時間はかかる。夜明けは午前四時。今日は朝満づめ(夜明けと満潮が重なる絶好の釣り日)
四時から2時間釣りをして、
朝のうどんは引田駅前の「引田うどん」で取ってと。
http://www.ne.jp/asahi/mensei/udon/zenten/0103.html
そこはなかなかの味なのだ。
遠足の朝のようなワクワク気分で、計画を立てる。

7時半には帰宅、それから行けば授業は十分間に合う。
というのでGo!
その日は今まで経験した事のないほど、釣れに釣れた!
投げ釣りカレーのイレグイなのだ!時間はすでに6時半を過ぎている。
「いやだ!こんな機会は滅多にない!授業なんかやりたくない!」
しかし、もう一人の自分が、諭す。
<まずいぞ、先生。あなたの本業は教員。魚はまた釣れる。落ち着きなさい>
「いや!魚はまたは釣れない。授業はまたやれる?!休講になれば学生だってうれしい?!>
そして、7時。ついにえさを使い尽くした。あきらめるしかない。
釣り人の私は負けた。

「帰るぞ!」
しかし、もう夜中ではない。車の数は増えている。残念だがうどんもなし!
私は愛車の赤いホンダシティーのアクセルを全開で吹かした。
しかし、大きな遅いトラックが前にたちはだかった。
「おーい!遅いぞ!こっちは急いでいるんだ」
接近してパッシングするも一向にスピードが上がらない。
私が我慢できずに、はみ出した。
そして一気に追い越そうとアクセルを吹かした。
しかしである。
そのトラックは一挙にスピードを上げたのだ。
完全な嫌がらせである。
その時、前方からバスが来る。
赤いホンダシティーは完全に反対車線を逆走している。
「まずい、このままでは正面衝突だ!」
私は追い越しをあきらめ元に戻ろうとスピードを落とし始めた。
すると、隣で並走しているトラックもスピードダウンするではないか!
「ぎゃー!殺す気か!」
バスはもう目の前まで来ている!
激しく連続してクラクションを鳴らし始めた!
バスの運転手と目があった!
聞こえないが目が吊り上がり、すごい形相だ! 
なにか怒鳴っている!
「ぎゃー!もう駄目だ!絶体絶命!」

(つづく)