追憶:私とうどんと讃岐9)コロッケうどん

「もう駄目だ!ぶつかる!!!」
ここであきらめたら、私は激突、まちがいなくあの世にいっていた。
しかし、人間というのはおかしなものだ。なぜか命の危機に落ちいった時に時間が延びる。
私は19歳の夏に交通事故で激突し、45日間入院したときの事故直前の場面を思い出していた。
「あきらめたら、ああなる。今度は間違いなくあの世行きだ!」
と考えているのである。
そして、見ると、横のトラックと前から迫るバスの間に、わずかな隙間がある。
その隙間は、どんどん狭くなる!
「行ける!」
私は、一気にアクセルを踏んだ!
その隙間めがけてわずかなチャンスに命を懸けた!
そして、一気にハンドルを右へ切った。
私の赤いシティーは横のトラックの直前を横切り、道路をはみ出し、路側帯と海の間にあるじゃりの敷き詰められたわずかな敷地に突っ込んだ。
そしてーーー、止まった。
背後で、ドップラー効果で低くなっていくトラックとバスのクラクションが鳴り響いていた。

「助かった!」

どのくらいそこにとどまっていたであろうか。我に返った。
そして、時計を見た。まだ、出発して10分ほどしか経ってはいない。
「まだ間に合う。授業に」
しかし、今度は慎重に運転をし、ついに授業5分前に大学へ帰りついた。
10時半。講義を終えた時、急に空腹が襲った。
大学近くの久保製麺へ。
「かけ、大、コロッケ」
ここのうどんのちょっとからめの汁と腰のあるうどんにコロッケの芋が絶妙に溶け込み、油がこうばしい香りとまろやかさを醸し出す。
「うまーい!」
そこへ先ほど講義を受けていた学生がドカドカと入って来た。
「お?おまえらも朝飯か?」
「はーい。先生。ところで先生、すごい日焼けですね。最近、調査で忙しいのですか?」
「ん!?」
私は心の中で、
<そう調査が忙しくてねーー、なんてうそはいえん。しかし、釣りやけだなどと正直にもいえん>
などと思い、苦笑い。
「授業、ちゃんと出ていてよろしい!ところでどうだ授業は?」
「おもしろいですね。漫談が一杯入って脱線するところ。釣りへいって、釣れない時に足下の石を眺めながらひらめいた、なんて最高ですよ!」
「今朝のの釣りは、どうでしたか?」
「エ!?ーー。あははは!!」
<大漁だよ、大漁!>(こころの中で叫んでいる)

(つづく)