奥深き満州にて(3)

麺は食べたい!しかし、勘弁してくれ!犬の肉だけは!
朝鮮族が食習慣として犬の肉を食する事は良く知られている。ペットしての犬の肉を食べる事に対して私たちは嫌悪感を感ずる。
しかし、それはそのような食習慣のない側からの感覚である。たとえば私たちは鯨の肉を昔食べていて、私も大の好物であった。しかし、そのような習慣のない人から見ればとんでもない嫌悪感を感ずるものだ。それは日本人バッシングとして今でもいつも問題になる。幕末から明治にかけて、それまで牛を食べる習慣のなかった日本に牛肉の「すきやき」が広がったが、当初は角がはえるだのなんだ、白人はなんて野蛮な赤鬼!と大変だったらしい。だから、犬の肉を食することに対する嫌悪感は、単にそのような食習慣の違いである。
そんなわけで、ちょっと前に目の前で引きずられていった犬がすでに肉になって、食道に並んだことを想像するだけでもうだめだ。

私たちは、連日の油で炒めた中国料理に飽き始めていたので、麺と見ただけで、そして最初は猪という字が書いてあるので食欲をそそられていたのではあるが諦めた。
そんなことが続いていたある日の事である。
ちょっと大きめのレストランで食事をすることとなった。
私たち以外に客は誰もいない。
レストランというほど立派ではない。薄汚れている、おまけにきちんと整理はされていない。
でも、ウエートレスもちゃんといる。
まだ若い女性だ。
「うおー、かわいい!」
同行した一人がいった。
「確かに、一人は中学のときのあのかわいかった子に似ている!一人はボーイシュだったあの子に似ている!いやうちの女房のほうがやっぱりかな?」
などという邪念が頭をよぎる。
<これを「鄙稀」(ヒナマレ)というのだな?>。
ひな稀とは、とんでもなくヒナビタところに、たぐいまれなるかわいい女性がいることを言う。単に女性だけをさすわけではないが。

隊長いわく「調査でどろんこになっていることが続くとどんな子でもかわいく見える!それは幻影だ!」
「そうだそうだ!そんな事より飯だ!」
出されたのは朝鮮料理。
キムチがたくさんある。おまけに新鮮な生キャベツがある!
そのような新鮮な野菜は、中国へ来て久しぶりだ!
ウエイトレスが近くへ来てサービスをはじめた。よく見るとその赤い制服の袖口が汚れている。お腹のところも汚れてる、箸はちょっと離れたところから飛んで来。などいくつも「ギョ!」とするところがあり、急速に最初の印象は醒めていった。
「うまーい!」
生キャベツにキムチを添えて食べると、最高!である。おまけにコーリャンから作ったマオタイ酒でみなほろ酔い。
皆、満足げである。
「いやー、うまかったね!明日もこれが出ないかなーー」
私たちは、笑顔を交わしながら宿泊所へ帰った。
そして、寝入りに着く頃、何やらお腹がごろごろとしはじめた。
おや、食べ過ぎかな?
「う!トイレ!」
(つづく)