5月31日(土) 
日本地質学会北海道支部での講演要旨です。爽やかな季節でありますように。

http://www.geosociety.jp/outline/content0023.html

地域地質研究をどのように一般化するか。北海道研究への期待

はじめに
「私たちはなにもの、どこからきてどこへ行くの」とのゴーギャンの絵のタイトルにもなっている人類の果てしない問いは、知的好奇心の根本であり、「私たち」という主語を自由に変えて科学は発展してきた。
地質学は老舗地球科学である。そして、その科学としての出生において、問いかけの主語を「私たち」から「地球」へ置き換えて進んできた。従ってこの科学の大志は、「地球とはなにもの、どこから来てどこへ行くの」を探る事である。昨今、この問いの対象が「地球型惑星」「系外惑星」へと広がっていることは言うまでもない。

地質学における「地球」と「地域=北海道」
しかし、地質学においてはこの「私たち」という主語を縮小し、「アルプス・ヒマラヤ山脈」「南海トラフ」「日本海溝」「日本列島」「四国」「北海道」などという地球上のある地域に限定して問答を進める場合が圧倒的である。地域研究をすすめるに当たっては地球を理解する上で、その地域のみがもつ一般的意義を常に明らかにし、研究結果の公表に当たってもその意義を繰り返し強調する必要がある。たとえば地殻中下部が露出する北海道日高山脈の研究をすすめようと思うとき、大陸地殻の形成と進化にかかわる現在と過去の全ての最新研究のフォローが必要であるし、その北海道のテクトニクスを論じようとすると地球上の全ての島弧や海溝会合部研究をフォローする必要がある。地域限定的な地質や地球物理学的研究は、その地域の「○○はなにもの、どこから来てどこへ行くの」への答えは与えてくれるが、「地球とはなにもの、どこから来てどこへ行くの」へはそのままではつながらないのである。
20世紀後半に起こったプレーテクトニクス革命はこの両者をつなぐ明確な「科学のプレームワーク」(パラダイム)を与えたし、20世紀末から可能となったGPSなどによる時々刻々の変動の観測は、シームレスな時空間スケールにおいて地質学を一層定量的科学へと発展させようとしている。
本講演では私たちが最近進めている南海トラフ研究を例に、「地域研究」と「地球研究」の組み立て方を紹介してみたい。

地質学における「素過程研究」
一方、地球惑星上で進行する地質作用(風化・堆積作用、火成作用、変形・変成作用)に関する研究の進展は、地域地質研究を深化させる上でも基礎として欠かすことができない。これらは20世紀後半以降、観測・観察、実験、理論・シミュレーション研究で飛躍的進歩を遂げている。地域地質研究に際しても常にそれらの最先端をフォローすることを期待したい。一方、自然そのもののリアルワールド(それをフィールドと定義する)の方が常に人間の知識体系としての「科学」よりも豊かであるのだから、研究結果を「科学」へフィードバックさせる「等身大の地質学」の実践を期待したい。

おわりに
社会の長い伝統の呪縛から解き放たれ自由になり大志を抱く、北海道開拓のフロンティア精神は、北海道人の優位性である。科学の進歩においても同じ。これまでの常識を疑い、理にかなって果敢に挑戦することで前へ進む。老舗地球科学という地質学の古い良き上着を、フロンティア精神によって時代を牽引する新しい科学へと衣替えする。北海道の地質はそのことが出来る優位性を持っている。