夢を売る男

夢を売る男

夢を売る男


百田尚樹のベストセラー
再び三たびの、ほんわか・ラストを期待して読み始め、週末を幸いに、他の宿題をチョット投げ出し一気に読んだ。

ほんとうにいいね、彼の作品のこの読後の爽やかさ。

blog,twitter,facebook---. 自己主張、自己顕示欲を満たす情報手段の氾濫。しかしそれが膨大になると無限情報の中にその自己顕示欲は満たされず再び埋没していく。欲求不満。するとそれを満たすために情報検索システム、顕示システムが発展するという連鎖。

この連鎖は人間が社会的動物であり、人に認められることによって生存への安心が得られるというハーレム類人猿集団の生存本能に起因する。しかし、核家族社会を経て、少子高齢化、孤独化によって安心が一層不安定化し、その解消の方法としてこの連鎖は起こっている、などという文化人類学的説明が可能かもしれない。

この流れの一部とし、一般出版界も、我らの学界における論文出版・検索システムも日進月歩で、苦闘している。ふりまわされている。
その出版業界のドラマ人間模様がこの小説。(ふ〜!、長い背景解釈)


最後に登場する、一大騒動の石川県(金沢?)の元大学教授の架空(?)著書「我が戦いに悔いなし」、編集者・飯島杏子が涙を流して「夢を売る男」に訴える老婆の原稿、読んでみたくなる。

本小説を読んで、私自身も「自己顕示欲」の強い人種だな〜と改めてつくづく思う。研究をしている人間は、人と違ったこと、すなわち「独創」を示さなければならない。結果は認められたいという思いの強い「自己顕示欲」の塊のような人種。と居直ってみる。

しかし、「欲」と記すと何やら「悪」のイメージがつきまとう。
自己顕示の方法と、それを冷静に評価する方法、ルールがあるのが科学の世界だが、下手をすると見えるのは「自分の思いだけ」、という落とし穴もある。

本小説は、その自己顕示にルールがあるようなないような一般社会にあって、「見えるのは自分の思いだけ」の人々に如何に夢を与えるかがテーマ。人に認められるという本能的歓びへつなげ、それによって自らも編集者としての歓びを得る過程を小説にしたもの。

ルールがないだけに醍醐味ともいえる。

さ〜、「見えるのは自分の思いだけ」ではない論文を書こう!本も書こう!という気にさせてくれた。